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人旅 18meets 平田竹二さん

人旅 18meets 『平田竹二さん』

 

地域の魅力的な方々を旅し、その人生に迫るコラム『人旅』。今日の旅先は昔の三蟠港にある平田釣具店のご主人、『平田竹二』さんだ。

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平田さんは漁師だ。もう40年以上のキャリアがある。漁師としてデビューは20歳を過ぎた頃、以来ずっとこの地で船を出し海で漁をしておられる。

その昔平田さんが漁に出ていた頃の海の水はとても綺麗だった。そして魚も沢山捕れた。春から夏にかけては、ハゼ・ウナギ、秋はワタリガニ、冬はアミ・白魚etcシーズンを通じて漁業も栄えていた。

 

平田さんのお父様は現在の釣具店が三蟠軽便鉄道の三蟠港駅だった頃の駅長さんだった。

だから平田さんは一からご自分で漁師の仕事を覚えていかなければならかった。

先輩である地域の漁師さんたちに『漁のいろは』を教えてもらいながら海の現場で実際に漁をやり、仕事を着実に覚えていったのだ。

 

沖新田の漁場は海水である塩水と川の水である真水が交わるポイント。平田さんによるとこの交わるポイントで育った魚たちは味がとても美味しいらしい。漁業が盛んだった当時、この地で捕れた魚は人気が高かったことだろう。

 

時代の流れから児島湾に堤防が造られ、旭川のダムが建設された頃から、自然環境の変化が生じ徐々に魚が捕れにくくなっていった。平田さんも現場でその変化を目の当たりにしていたので良く覚えておられた。

 

平田さん

『堤防やダムに使われているコンクリートはアクが出るんです。アクが水に溶け出す。それを魚や貝たち海の生物は嫌うのです。昔の堤防などは「石」で造られていた。これが自然にとっては優しいのです。人工的なものはやはり自然環境に大きな影響を確かに与えてしまう。とても残念なことですね。』

 

大元

『魚が捕れなくなる実感、平田さんはどういう風にお感じになられていましたか?』

 

平田さん

『とても寂しい気持ちでしたね。自然の恵みを受けていた我々の仕事。環境の変化は仕事の成果にも大きな影響を及ぼす。何より、ここで捕れる魚を喜んでくださる多くの方々に提供することが出来なくなっていったのが辛かった。』

 

環境の変化は魚が少なくなった事だけではない。昔は夜から明け方まで船を出していたら、霧がたちこめることがあった。何とも趣のある光景だったそうだが最近は霧が発生する事自体が稀なそうである。気温の変化等が考えられるが、自然と共に生きてこられた平田さんだからこそ感じる海の変化のひとつだ。

 

40年以上海で漁を続けてこられた平田さん。その人生の中にはいつも海があった。うれしい事、悲しい事沢山あったろう。

 

大元

『海に出ていて今までどんな事を感じてこられましたか?』

 

平田さん

『魚が大漁だったときはこの魚を喜んで食べる人の笑顔がいつも思い浮かびました。それが何よりうれしい事だった。悲しい事…辛いことは…まあいろいろありましたよ(笑)』

 

平田さんは記憶を呼び起こすような顔をしながら語ってくれた。辛かった事もきっとあったはずだ。でも平田さんは具体的なエピソードについて多くは僕に語らなかった。

男らしいなあと僕は思う。

辛い事悲しい事は人生の中で必ず誰もが経験する。だが男はグッとこらえてそれを外に出さないのが男だ。

子供の頃の海との思い出も平田さんは僕に話してくれた。

昔、沖新田は飲料水など水の確保に苦労していた。かつては海の底だったこの地ではどこを掘っても掘っても出てくるのは塩水ばかりだ。

しかし、高島という近くの小島には不思議なことに真水が出た。地域の方々は飲み水を汲みに高島まで船で行っていたそうだ。

子供の頃友達とハゼを釣り、舟を高島につけて休んだ。島にはりっぱな松の木があってその木陰で弁当を食べて島の住民の方に井戸水を飲ませてもらった。

井戸水の冷たさと美味さは今でも鮮明に平田さんは覚えておられる。

海と共に育った平田さんらしいエピソードだ。

 

現在も平田さんはご自分の船『高島丸』と共に海に出る。魚は殆ど捕れなくなっているので主に魚釣りの餌に使う『アミ』の漁をされている。

深夜から出航して明け方まで漁をする毎日。アミのシーズンは10月~3月いっぱいまで。アミはママカリやサヨリを釣る餌になる。平田さんが捕るアミは新鮮さが売り。釣り人の間でも平田釣具店のアミは活きがイイので良く釣れると有名なんだ。遠くからも釣りに行く前に平田さんの捕ったアミを求めて今でもお客が来る。

 

素敵なエピソードがある。平田さんのアミで釣りをしていた方の隣で釣っていた方があまりにも良く釣れる様を見て『その餌どこで買ったの?』と聞かれたそうだ。

『もぅ帰るからこれで釣ってみられぇ』隣の釣り人に平田さんのアミをあげると、当たりがあるある…その話を内に帰ってから平田釣具店にお電話してきてくれたそうだ。

 

ダイレクトにお客様の声を聞いた平田さん。きっとすごくうれしかったんだろうなあ。

 

最後にその方の人生の指針となっていることは『心のことば』をお聞きした。

 

『人を喜ばせることをする。そうしていれば全て後からついてくるものだ』

 

平田さん

『自分の私腹を肥やすことだけ考えているのは寂しい考えだ。誰かを笑顔にしたり、喜ばせることができる人は素晴らしい。人に喜びを与える人間でいたいといつも思っていました。だから魚が大漁だったとき「売ればいくらの儲けになる」なんて考えは一度もしたことがない。』

 

『世の中全て銭金ではないと思う。誰かの喜びのために何かをやる。それこそが人が生きるうえで何より大切にしなければいけない心だと私は思うんです。』

 

アミ漁は楽な作業ではない。だけど喜んでくれる人、アミを待っている人のために平田さんは船を出し続ける。

喜んでくれる人のことを思いながら仕事をする。僕達は機械やコンピューターじゃない。感情がある。決められた数量、金額を達成するためだけで仕事するわけではない。だからこそ、機械が捕った魚やアミと平田さんが大切なお客様の事を思いながら捕った魚やアミとじゃ、意味が決定的に違う。

 

人の喜びを海でみつけてくる…そしてどんな時も海を愛し、そこから受ける恵みに感謝する心を忘れない。

平田さんはどこまでも『海のおとこ』であると僕は思った。

いつまでも大好きな海でお仕事を元気でなさって欲しいと心の底から思うのである。

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平田さんと僕                 平田さんを支え続けた奥様と

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